HIFIMAN HE6SE レビュー - ヘッドホンの感度・インピーダンスの関係など
先日新しいヘッドホンを手に入れました。平面磁界型のHIFIMAN HE6SE、高出力アンプでないとまともに鳴らないことで有名なヘッドホンの一つです。
これまではヘッドホンなんて、DAPかヘッドホンアンプにつなげば鳴るのが当たり前だったのですが、さすがにHE6SE購入にあたっては、手持ちのアンプでちゃんと鳴らせるのか不安になり、すこし調べてみました。ネットによるとHIFIMAN関係者のコメントとして「チャネル当たり最低2W」が必要とされているようです。
私のアンプはMusical Fidelity MX-HPA という少々古いもので、スペックを見ると「Power: 1.8 Watts per channel into 8 Ohms (27dBW)」となっています。HE6SEのインピーダンスは50Ωですから、8Ωで1.8Wなら全然大丈夫だろう(100Ω以下くらいの領域ならインピーダンスが大きい方が出力は大きくなるので)、ということで購入に踏み切りました。もしダメだったらアンプまで買わないといけなくなるので大誤算です。
幸い、購入後鳴らしてみたら、ゲインHIでボリューム位置11時~2時程度に収まっており、瞬間的なアタックの含め余裕十分でほっとしました。
HE6SEの音質など
素晴らしいの一言です。これまでDrop x FocalのElexで十分満足していたのですが、HE6SEの音を体感してしまうとちょっと戻れません。低域のまっすぐな伸びとか、楽器位置や空間のシャープな再現性とか。一般的には解像度が非常に高いと表現されるようですが、単に細かいということではなく、その結果、各音源が3D空間の中でそれぞれ3Dの塊として聞こえるようになります。実際にはありえないのですが、位相が完璧にそろった超高級マルチBA IEM、みたいな感じもしますね。重さがだいぶ違いますが。
知覚的な音の広がりである音場が広くはないとされている(私は必要十分だと思います)ことも合わせ、どちらかというとジャズやロック向きと言われますが、そんなことはなく、クラシックでも完璧に魅力を発揮します。小編成の室内楽や低域の特性を生かしたミサ曲など、これまで隠れていた魅力に気づくことも多いでしょう。もちろん、ジャズの高品質なワンポイントマイク録音など、もうヘッドホンがないくらいの透明さで、これ以上のものはないだろうとさえ思えます(それがあるのがヘッドホンの恐ろしいところですが)。
試聴するなら
結局自分の好きな曲で試聴するのが一番ですが、やはりHE6SEの特性を把握したいところです。楽器位置・空間がきちんと見通せるもの、低域の伸びが楽しめるもの、スタジオのエンジニアの丁寧な仕事がわかるもの、などがいいでしょうか。私の場合は以下のようなアルバムから曲を選んで試聴しました。
Live in Capalbio 3.0 - 楽しいイタリアのバンドのライブ。録音もいい。
Don't you cry - ワンポイントマイクでの女性ボーカル。各楽器が個々に把握できるか?
Nightbird - 女性ボーカルのライブ録音。歌はもちろんライブ会場の雰囲気がいいです。
Dissidents - 懐かしのトーマスドルビー。80年代テクノポップ。
Franck Complete Masterworks for Organ - ややラフだがパイプオルガンの迫力を。
Tchaikovsky - Violin Concerto - 以前聴いたベルリンフィルのコンサートの再現性。
Future Pop - Future pop, Fusion初めのあたりの低音とか。
Anon: Pange Lingua - 声の響きに魂が清められます
ヘッドホンのスペック・感度の見方
さて、今回はじめてヘッドホンの感度やインピーダンスなど気にして考えたので、ちょっとメモしておきます。
HE6SEのスペックは
- インピーダンス : 50Ω
- 感度 : 83.5dB
となっています。細かく書くと
- インピーダンス : 50Ω @1khz → 1khzの正弦波に対する「抵抗」
- 感度 : 83.5dB SPL/mW @1khz → 1khzで1mWの入力があったときに得られる音圧
という意味です。
感度をS[dB]、リスニングに欲しい音圧をP[dB]、入力電力をW[W]とすると、音圧の定義から以下の関係が成り立ちます。
P-S=10・log(W[W]/1[mW])
これをWを求める形に変形してみましょう。まずは物理量ですから単位を合わせてから。
P-S = 10・log(1000・W[mW]/1[mW])
P-S = 10・log(1000・W) = 10・log 1000 + 10・log W = 30 + 10・log W
log W = (P-S-30)/10
W = 10 ^ [(P-S-30)/10]
式は頭が痛くなるかもしれませんが、面白いことに、必要な入力電力W(=ヘッドホンアンプの出力)は、欲しい音圧Pとそのヘッドホンの感度Sだけで決まり、インピーダンスなどほかの要素が登場しないことがわかります。(そうだったんだ!)
W = V^2 / Z でVとZで把握する式にもできますが、それはまたいずれ。
「チャネル当たり最低2W」の意味
ここで具体例があった方がわかりやすいと思いますので、冒頭の「チャネル当たり最低2W」の根拠を考えてみます。普通は瞬間的に110dBもあれば十分でしょうから、P=110, S=83.5を代入してみると、
W = 10 ^ [(110-83.5-30)/10] = 10 ^ -0.35 = 0.45 [W]
です。あれ?HIFIMANのいう「チャネル当たり最低2W」とは全然合わないですね。おかしいな。では、逆に2Wというのはどれくらいの音圧を想定しているのでしょうか?
上の式を、欲しい音圧を求める形に変形すると2行目からすぐに
P = S + 30 + 10・log W
となります。感度Sと入力電力Wが分かればPが計算できます。
S = 83.5 (感度のスペックより)
W = 2 (「チャネル当たり最低2W」より)
これを代入して
P = 83.5 + 30 + 10・log 2 = 113.5 + 10 x 0.301 = 113.5 + 3 = 116.5 [dB]
これはずっと聞いていると難聴になるレベルだと思いますが、メーカーの表現として最低1.7W、みたいに刻むのもアピールとして弱いですし、ピークまでのマージンなどにもよること、あとは今回無視していますが、実際にはアンプの出力インピーダンスやケーブルの抵抗の影響もあるので「ざっくり2Wあればまあ十分(ほんとはもっと小さくてもいいけど)」というおおらかな解釈かなと思います。メーカーとしては、言った手前音圧がうまく得られないと困るので、マージンを大めに見たいでしょうし、数値が大きい方が「こんなにパワーがいるんだすごいだろ」と威張れた時代もあったからでしょうか。最近は平面磁界型であっても感度は十分上がっているので、そろそろ逆にマイナスイメージな気がしますけどね(Class DとかTHX AAAとかアンプも安くて十分高出力になったし)。
でもHE6がレジェンドなので、復刻Special EditionのHE6SEも別格なのかもしれません。
参考文献
- ©のんびりポタ・ランニング 2020 -
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